「人前に出るのが得意!」という人ならこの本を読む必要はないかもしれません。
しかし、多くの人は始めから人前が得意というわけではないのです。
そして、「人前力」というものは、実はビジネスパーソンにとって必須ともいえるスキルだということです。
逆に言えば、人前力を身につけることはチャンスになるということです。
『人前力』
著者:山本秀行
■本について
発行日:2010年5月25日
評価:★★★☆☆ (所要時間:1時間)
■こんな人におすすめ
- 人前に出るとあがってしまう方
- お客様の前で上手に話せるようになりたい方
- プレゼンを得意になりたい方
- スピーチを頼まれる機会がある方
- チャンスをつかみたい方
■概要
冒頭にも書きましたが、多くの人は人前が苦手だということです。
現在は会社のブランドに頼って生きていける時代ではありません。つまり、個人のブランド(パーソナルブランド)が必要になってきている時代だということです。
それでは、そのパーソナルブランドをどのように知ってもらうか?
これこそがまさに、人前力が必須で、チャンスをつかむために必要だと言う理由です。
「人前で、ちゃんと話せて一人前」
この言葉を合言葉に本を読むことをおすすめしています。
パーソナルブランドの時代
この記事を読んでいるあなたならまたこの話かと思われるかもしれませんが、現在の日本の会社は年功序列や終身雇用の崩壊が進み、大企業といえどもどうなるか分からない時代です。
そんな中で、転職することも含めて自らの手でキャリアを築いていく必要に迫られていることが考えられます。
つまり、人をブランドとして捉え、市場価値を向上させる考え方をパーソナルブランドということです。
パーソナルブランドはどのようにして構築されるのでしょうか?
それは、他者評価によって構築されます。言動・スキル・経験などについて他者から評価を受けることにより、その人の市場価値が決まり、パーソナルブランドが構築されていくのです。
「人前力」はそのパーソナルブランドの構築に欠かせないものです。人前でアウトプットすることが、パーソナルブランドを進化させていきます。
人前力をアップさせる心がけ
人前力を鍛えるチャンスとして、大勢の前でのプレゼンやスピーチを想像されるのではないでしょうか?
それはもちろんですが、それだけにかかわらず一対一も含めたすべてのコミュニケーションの場が人前力を鍛えるチャンスだということです。
そして、テクニックだけではなく、人前で話す上での心構え、感謝の気持ちといったマインドの部分も人前力には含まれます。
そのマインドがあるからこそ、プレゼンの内容が聞き手の心の中まで届き、プレゼンテーターとしての信頼感も生まれるのです。
注意すべき項目を紹介すると、
■汗をかけば拭けばいい
人前に出ると緊張するもの。それを認め、汗をかけば拭いて一息つくことで落ち着けるものです。
■話し手は脇役である
つまり、主役は聞き手。
話し手が、まず主役である聞き手のことを考えることで、そのプレゼンやスピーチ、メッセージは独りよがりなものではなくなります。
そして、主役を引き立てる脇役の視点を持つことで、その場は発信者と受診者の心が通じ合う共感の場となるのです。
■「人前力」は少しずつ身に着けていけば良い
人前が苦手なのは、そういう性格だからと言う人がいます。それを理由に避けているといつまでも人前力が鍛えられません。
どのような性格であろうと、どのような職種についていようと、人前で話す機会が訪れます。
急に緊張しない人を目指すのではなく、人前では緊張する人であるという出発点から、少しずつ鍛えていけばいいのです。
人前力をアップさせる行動
場数を増やす
人前力を向上させるのは場数が大事です。いくら泳ぎ方の本を読んでも泳げるようにならないように、プレゼンが上手くなりたければ、より多くの場数を踏むことが必要です。
そのためには、チャンスが来ることを待っているだけでなく、プチプレゼンの場を自分で作るのです!
例えば、
- 上司への報告・連絡・相談の回数を増やす。
- 朝礼での発表を買って出る。
- 会議で発表する回数を決めて実行する。
- 質問の場で必ず手を挙げると極めておく。
- 同僚におすすめの店を紹介する。
など、ちょっとしたプレゼン、プチ・プレゼンであれば、自分の心がけ次第で作れるものです。
幹事を引き受けよう
幹事をすると、冒頭の挨拶や司会進行、終わりの挨拶などで人前に出る機会が増えます。
幹事を引き受けることは人前慣れするチャンスなのです。
異性・異世代・異業種の人と、積極的に話をする
様々な人と話すことで視野が広がるとともに、交流があなたのコミュニケーション方法や表現方法に広がりをもたらします。
異業種交流会などで行う自己紹介は、パーソナルブランドを構築することに直結します。
自己紹介は、プレゼンの基本です。しかも自分自身のことを相手に伝え、その場で他者評価を受ける機会です。
つまり、パーソナルブランドに直結するプレゼンなのです。
時間配分
話し手には時間管理の責任があります。
人前では当然ながら、話し手の時間だけでなく、聞き手の時間でもあります。
その分、話し手は時間管理に責任を持つことが求められます。
心を届ける話し方
喋りのプロではないので、噛むことよりとにかく人前で話すこと。そして、噛むことより大切なことは、まず伝えようとする内容です。
そして、噛んでしまったときでも、伝えるべきことをどこまで伝えることができるかが重要なのです。
また、ゆっくりと話せばいい、わけではなく、状況に応じてスピードにメリハリをつけることです。
さらに、大きな声を出せばいい、わけでもありません。
ここで、問われている声の大きさとは、相手にちゃんと聞こえる大きさ、メッセージを届けるのにちょうどよい大きさという意味です。
決して、大声で話をしなさいと言っているのではないのです。
人前で話すということは、話し手と聞き手のコミュニケーションであり、話し手の独壇場ではないのです。
ではどうするかと言うと、心を込めて話をするということです。
心を込めて話をすれば、おのずと魅力的な声や口調、話し方になります。
プレゼンでの人前力
プレゼンにおいては、プレゼンテーターとして矢面に立ち、当事者になった者だけが気づくことのできる大切なことがたくさんあり、そこでしか鍛えられることのない〈人前力〉があるのです。
これらは、今後のビジネスにおいて、とても大事なものとなるのです。
気になることは放っておかない
プレゼンの準備作業で気になることがあったら、そのすべてを考えてつぶしておく、ということです。
そうすることで、プレゼンの場に安心して臨め、どのような質問をされても、落ち着いてそれに答えることができるのです。
気になることについてしっかりと考えるという習慣こそが、その人の〈人前力〉を向上させることにつながるのです。
自分の言葉でプレゼンする
プレゼンの原稿を用意することは、決して悪いことではありません。
しかし、人前でただそれを読み上げるのでは逆効果です。
著者が研修で伝えていることは、プレゼンの原稿は「読むけど、読まない」ということです。
プレゼンでは、自分の言葉で話す。そのためには、リハーサルを重ねることが、あなたの〈人前力〉をアップさせることにつながるのです。
限りある時間を活かす
人前での時間は常に限りのある時間です。
プレゼンでは、たいてい制限時間があります。限られた時間の中で、どれだけ充実した提案を行うか。これがプレゼンの良し悪しを決定するといえます。
そして、プレゼンターは、与えられた限りある時間を、誰よりも大事にする心構えが必要なのです。
時間に対してまず考えなければいけないことが制限時間内にプレゼンを終わらせるということです。
当たり前のようですが、これができていない人が意外と多いのです。
時間に対してルーズであることは、その人の仕事ぶりをも想像させてしまうものです。
逆に、時間を厳守したプレゼンは、それだけでもよく考えられた内容であると判断されます。
しかし、あまりに早く終わってしまうプレゼンもあります。これは、受け手側にとっては違和感を抱き、その内容に厚みを感じません。その程度しか考えなかったのかと思われがちです。
制限時間とは、その時間内であればいつ終わってもよいというものではありません。やはり、その時間を出来るだけ有効に使い、プレゼンすることが求められているのです。
落語家に学ぼう
〈人前力〉を向上させるうえで、とても参考になるのが落語家です。
落語家は、たったひとりで話し、聴衆を笑わせ、泣かせ、心を揺さぶるのです。だからこそ、人を惹きつける落語家の〈人前力〉には学ぶところが多いのです。
話しはじめる前から惹きつける
つまり、登場時の期待感。これが話しはじめる前から、相手を惹きつけるポイントなのです。
はじめの一分で惹きつける
どういうことかと言うと、いきなり本題に入らずに、まずは感情のウォーミングアップからはじめます。
落語でいう「枕」の部分です。今で言うオープニングトークというものでしょうか。
相手をよりこちらに惹きつけるためには、いきなり本題に入るのではなく、落語の枕にあたるオープニングトークを用意することが有効なのです。
なりきりで惹きつける
プレゼンの上手な人を見ると、まさにそのなりきりぶりに感心することがあります。ひとりで何役もなりきることで、そこには臨場感が生まれるのです。
ここでは、三つの「なりきりの術」が紹介されています。
- 話し方を真似る
- キーワードを真似る
- 仕草を真似る
また、人前で話をすることは恥ずかしい、苦手だという人は、そもそも照れを感じていることが多いものです。
その照れをなくすための手段として、これもまたなりきることがおすすめされています。
つまり、話し手という役、プレゼンテーターという役になりきることです。
役割として話し手、プレゼンテーターを演じる。そんな考え方を持つことで、聞き手はあなたの話に惹きつけられるのです。
「間」で惹きつける
「間」という無音には、人を惹きつける力があるのです。
「間」を取ることで、音が消え、メモする手も止まり、聞き手の目がすべてプレゼンテーターに集中するのです。
「間」は、聞き手に次に来る言葉を期待させます。
逆に「間」のないプレゼンは、間抜けなプレゼンとなってしまいます。
■この本から学んだこと
私ももともと、人前で話をすることは苦手でした。
しかし、この人前で話す力〈人前力〉はビジネスにおいてとても大切なことだと思い、人前力を鍛えたいという想いからこの本を手に取りました。
はじめは、プレゼンやスピーチでプレゼンターとして前に立ったときに役立つ情報はなにかないかと思って見た本でしたが、実際は、それもありますが、心構えや練習方法というところが多く、驚きでした。
そのようなことは、知っていましたが、具体的に練習をする機会もほとんどなく、あったとしても活かせていない状態でした。
しかし、この本の中で、プレゼンの練習の場を自らつくるということ、また、普段のコミュニケーションでも人前力を鍛えるチャンスなのだということに、気づきを得ました。
そして、人前力を鍛える上で心がけることとして、いちばん大切だと思えたことがあります。
それは、プレゼンやスピーチで人前で話すときでも、一対一の場でも共通して、話し手と聞き手のコミュニケーションの場だということです。
ぜひあなたにもこれは意識していただきたいと思います。
■目次
まえがき――そろそろ、人前でちゃんと話せる自分になりませんか
chapter Ⅰ 〈人前力〉が求められるパーソナルブランドの時代
01 あなたというブランドを、人前で発信する時代
02 〈人前力〉で、パーソナルブランドの構築へ
03 人前でのアウトプットが、パーソナルブランドを進化させる
chapter Ⅱ ちょっとした心がけで〈人前力〉はアップする!
04 すべてのコミュニケーションは、〈人前力〉を鍛えるチャンス
05 〈人前力〉が、魅力あるあなたをつくる
06 汗をかいたら、拭けばいい
07 話し手は、脇役である
08 人前が苦手なことを、性格や職種のせいにしない
chapter Ⅲ ちょっとした行動で〈人前力〉はアップする!
09 場数は、日々自分で増やす
10 飲み会では、幹事を引き受けよう
11 異性・異世代・異業種の人と、積極的に話をしよう
12 自己紹介は、パーソナルブランドの構築に直結
13 人前に出る前に、鏡の前でイメージトレーニング
14 ハンカチは、三枚用意する
15 時間配分はアバウトに、そして厳密に
chapter Ⅳ 心を届ける話し方で〈人前力〉はアップする!
16 「噛む」なんてあたりまえ、喋りのプロではないのだから
17 話のスピードに、変化を持たせよう
18 大きな声では、届かないこともある
19 心を込めると、声の調整スイッチが入る
20 マイクは、魔法の杖
chapter Ⅴ プレゼンで〈人前力〉を鍛える、そして発揮する
21 三十三歳、私を変えたプレゼン
22 矢面に立った人だけが、学べることがある
23 「気になる」ことがあったら、それは、神様の囁き?!
24 プレゼンは、迫力である?!
25 勝負しないで、対話しよう
26 質疑応答こそ、プレゼンの醍醐味
27 リハーサルを重ね、自分の言葉でプレゼンする
28 プレゼンでは、限りある時間を活かす
chapter Ⅵ 人前の話芸、落語に学ぶ〈人前力〉
29 相手を惹きつける〈人前力〉は、落語家に学ぼう
30 話しはじめる前から、惹きつける
31 はじめの一分で、惹きつける
32 なりきりで、惹きつける
33 無音の力、「間」で惹きつける
あとがき――噴き出した汗の量だけ、〈人前力〉が身につく